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夏のキズにご用心

巷では、よく夏場の暑い時期の怪我は、じゅくじゅくして治りにくいといわれています がホントでしょうか。キズの修復の基礎をふまえて、今回はそのあたりのことについてお 話ししましょう。


キズばどうやって治るの?

喧嘩などでで受けたきずの修復は、どのように行われているかご存じですか?ここでは キズの修復の仕方を簡単にお話ししましょう。我々獣医師が、学生時代に病理学の講義の 第一回目に受けた授業内容です。

痂皮形成期  
キズを受けた段階で、大なり小なり血管も損傷を受け出血します。血管から出てきた血液は空気に触れることによって、また血管内の凝固阻止因子から離れることによって、急速に凝固を始めます。大きな血管が切れたりした場合は、出血のスピードが凝固のスピー ドを上まり、なかなか止血しません。そのようなときは、キズを押さえるか、キズの心臓 側を縛ったりして出血のスピードを抑えることで止血されます。またキズの周囲に凝固しにくくする物質、たとえば水などがあってもなかなか出血が止まりません。特殊な例とし て、毒蛇にかまれた場合にも出血が止まらない場合があります。(蛇の毒には大きく分けて、神経を麻痺させる神経毒と血を固まらなくさせる血液毒の2種類があります)血液の 凝固が完成し、出血が止まったときがキズの修復の第一歩です。この時を痂皮(かさぶた) 形成期といいます。痂皮は、キズからの水分の蒸発やバイ菌の進入を防ぎ、直接キズに物 が触れないようにクッションの役割を負っています。痂皮は形成されて、乾燥し固くなる ときに、幾分縮むことによって傷口を小さくして修復しやすいようにしています。痂皮は、キズの修復の第一歩であるばかりでなく、今後の修復の道筋を決める重要な役割をしてい ますから、自然にはがれるまでけっしてむしり取ったりしないで下さい。この時点ては痂 皮はさほど盛り上がってはいないか、場合によっては周囲より幾分低いかもしれません。

肉芽増生期
 
痂皮が完成すると、その裏側の柔らかい部分には白血球の一種類の組織球が出てきて(周囲の血管からにじみ出てきます)、壊死したキズ周囲の組織や細菌、痂皮形成に余った血 液などを貪食(細胞内に取り込むこと)し消化してしまいます。このことによって汚かっ たキズ周囲は清浄化され、キズをきれいに修復するための準備が整います。最後にはキズ 内部の痂皮も貪食されます。清浄化作業と同時に周囲の正常な組織から網細血管がキズの 中に延びてきます。そしてこの血管の内皮細胞は、芽を出し延びていき欠損部分を充填し ます。これを肉芽組織といい、この時期には痂皮が盛り上がって見えます。

瘢痕収縮期  
肉芽組織にやや遅れて、繊維芽細胞が増殖しその細胞の間に膠原繊維を充填していきます。そしてだんだん全てが膠原繊維で置き換わり、瘢痕となり欠損部分を補い、キズの修 復は終了します。このときキズは収縮し元通りになろうとします。この収縮のこと瘢痕収 縮といいます。ただキズが小さいときは瘢痕とはならず、周囲の正常皮膚から再生がおこ り、完全に表面を覆うこともあります。その場合キズの跡はほとんどなくなってしまいま す。  

ちょっとややこしい説明をしましたが、これが一般的な感染や異物の混入のないキズの修復過程です。 


■夏と冬でキズの治り方に違いがあるの?

キズは、痂皮で覆われてるとはいえ、その温度は外界と接しており周囲の組織より幾分 低くなってしまいます。しかしながらキズを修復するための細胞、繊維芽細胞や血管内皮 細胞は、体温で一番仕事しやすくなっていますから、キズ周囲の組織は活発に活動して発 熱させます。ですからキズの周囲は熱を持ったようになります。このように単純にキズの 修復を考えた場合、冬よりは気温の高い夏の方が適しているといえます。  

では夏場の暑い時期の怪我は、じゅくじゅくして治りにくいといわれていることは嘘なのでしょうか。キズの修復が、一瞬で終わり修復に関係する細胞の働き具合だけで治り方 が決まるのであれば、嘘になります。夏の方がキズの修復は早いことになりますから。ただ実際にはそんなに簡単ではありません。

腐敗
 
先程も書きましたが、キズ周囲の壊死組織は組織球が貪食する事によって処理してキズ をきれいにします。ただしこの細胞の貪食のスピードはそんなに早くはありません。大き なキズの場合中心部分は、乾いてしまい組織球が仕事が出来ない場合があります。そうな ると壊死組織は長時間そのままでキズの中に残ってしまいます。残った壊死組織はどうな るかというと、当然腐敗します。この腐敗のスピードが夏と冬ではやはり外気温の高い夏 の方が早いようです。腐敗した組織の処理は、ただの壊死組織より時間がかかりますし、 腐敗の過程で、色々な毒素も発生してきますのでますますキズの修復が遅れます。遅れる だけならまだしも、修復されずに穴が空いたままで治癒機転が終了してしまい、いつまで たってもじゅくじゅく浸出液出てきているなんことにもなります。最悪ウジがわいたりし ます。

感染
 
腐敗にも細菌等が関与しますが、病原性のある細菌が入り込んでくると話はややこしく なります。細菌は、比較的狭い温度の範囲でしか生きられません。だいたい37℃前後です。 その温度以外でも生きていられますが、極端に感染力が落ちたり活動が弱くなります。至 適温度から離れれば離れるほどその傾向が強くなります。もうおわかりでしようが、夏の 気温の方が、至適温度に近いので、当然冬より夏の方が感染しやすくなります。感染した 細菌は、色々な酵素を出しながら周囲の組織を溶かしたりしながら奥へ奥へと進入してい き、キズがだんだん大きくなっていきます。感染を起こすとキズには、白血球の中の好中 球やリンパ球が侵出してきて、細菌を処理しようとします。先程の組織球もこの作業に加 わります。白血球軍団と細菌の全面戦争です。白血球が勝てば、キズの修復は少し遅れま すが治ります。細菌が勝つと、化膿という状態になります。膿は、勝利に喜ぶ細菌と死滅 した白血球の残骸です。膿が出ている状態になるとキズの修復は出来なくなってしまい、 範囲は広がる一方です。経験のある方もいらっしゃると思いますが、小さなキズのつもり で動物病院に行ったら、皮膚の下や筋肉の中に大量の膿がたまっていて、排膿処置の時によくもまあこんなにたまったものだと思われたことがあると思います。そのときキズの中をご覧になった方は、おわかりだと思いますが、化膿を起こすと、筋肉はぼろぼろになり 腐敗した組織がキズの中にいっぱいあって、それを掻き出すのに大変なことになります。


■夏のキズの管理

ここまでお読みになると夏に怪我すると大変なことになると思われてしまったかもしれ ませんが、適切な処置さえしてやればそんなに怖くはありません。 もし猫がキズをしているのが判ったら直ちにキズの周囲をきれいにして下さい。そして キズの中をみて下さい。どろや何か汚い物が中にあるようなら洗って下さい。怪我の時の 消毒薬があればそれを使って下さい。無ければ水道水でも大丈夫です。きれいにしたら、 猫が舐めないようにして下さい。口の中はばい菌でいっぱいです。舐めさせるとすぐに感 染を起こします。よく猫は舐めて傷を直すと言いますが、それは表面的な小さなキズの場 合です。原則はなめさせないことです。キズが大きかったり、古いキズでうまく治ってき ていないようなら、すぐに動物病院へ行って下さい。我々獣医師には、抗生物質という武 器があります。それと大きなキズの場合、縫合してあげることで、きずの修復は格段に早 くなります。
2〜3日様子を見ているうちに化膿してきてしまったら、治癒に数倍の時間 がかかってしまいます。当然費用も数倍、手術が必要になると10倍以上かかってしまいま す。すくに処置していれば、キズの消毒と、抗生物質を少し飲めば済んだのになんてことにならないようにして下さい。  

夏のキズでも、感染さえさせなければ冬に比べて治りは早いぐらいです。なによりも早 い処置です。ご自分が怪我されたら2〜3日ほっときますか?


 
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