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■夏の体重変化と食餌管理

夏の猫の体  

冒頭にも書きましたが、猫はリビヤなどの中東からエジプトにかけての砂漠地帯を生 活の場としていた者たちの子孫です。ですから乾期の、獲物も水も少ない時期を乗り切る ための特徴を備えています。人の近くにいる動物では、比較的最近になって飼い慣らされ た猫は、野生の特徴を色濃く残しています。特徴的なのは、脂肪代謝です。ここではこの 脂肪代謝を中心にお話しします。  

話が飛びますが、アフリカの砂漠にいるラクダのこぶの中身が何かご存じですか?。ラクダのこぶの中身は脂肪です。小さい頃ラクダのこぶの中身は水だと思っていましたので、 本当のことを知ったときは不思議に思いました。水筒が入っているはずのこぶの中身が脂 肪なんて最初は理解できませんでした。でもこの脂肪が実はラクダにとっての水筒なので す。脂肪は肝臓で代謝されると、大量のエネルギーと水分に成ります。食事として摂取し た脂肪をこぶの中に蓄えておいて、飢餓状態になったときに分解してエネルギーと水を得 ていたのです。ラクダが1ヶ月ほどのキュラバンから帰ってくるとこぶがなくなって、こ ぶのあったところの皮膚がしわしわになって垂れ下がっているのをテレビなどでご覧になっ たことがあると思います。水や餌の補給がままならないキャラバンでは、こぶの中の脂肪 を代謝することによってしのいでいたのです。  

猫には、こぶはありませんがこの脂肪代謝によってエネルギーと水を得る能力に長けています。人や犬にもこの機能はありますが、猫にはかないません。猫が砂漠の生き物と言われるゆえんです。夏の暑い盛りにも、たいして水を飲まなくても涼しい顔をしていられ るのはこのためです。ですからこの時期、脂肪の出入りが激しい分体重の変動も大きくな ります。丸一日外で遊んで帰ってくると、冬場よりげっそりやせて見えるのはこのためで す。ただこの機能、人と一緒に生活している猫にとって両刃の刃にも成りかねません。次 にこのあたりを説明いたします。ちょっと専門的な話になりますが、我慢して読んで下さ い。  

飢餓状態になると脂肪は、肝臓でβ酸化という経路を経てエネルギー(アデノシン3燐 酸:ATP)と水を生成します。このときに副産物として、アセト酢酸などの強い酸性物 質をも産成します。この酸性物質は、体内のアルカリで中和されるとともに尿に排泄されます。水を得るために、余分の尿を作らなければならないのはいたしかたないことです。 ここで飢餓状態と書きましたが、自然にいるときは、いつでもえものが獲れるわけではありませんし、ましてや乾期にはいつ水が飲めるかなんてわからないのです。長い間飢餓状 態が続くことは決していいことではありませんが、砂漠地帯で命をつなぐためには選択の 余地はありません。自然ではこの状態で平衡状態が保たれていますが、飼い猫では状況が 少し違います。猫は遠い祖先の記憶として、夏場の水分の補給はままならないから自身の脂肪を分解することを積極的に行うようになります。これは本能的に自動的に行われる ためにどうすることもできません。水をふんだんに飲めるようにしておいても、冬場より 少し飲む量がが増える程度です。体の中では水分をもっと必要としているはずですから(冬 場に比べて体温調整のために呼気で失われる水蒸気の量が多くなる)その分は脂肪代謝でま かなってしまっています。当然酸性物質を中和するためにアルカリも動員されて平衡状態 を保とうとしています。

ところが飼い猫の場合家に帰ってくると、食事はあるし水もあります。当然空腹ですから食べます。そうすると今度は体内は、アルカリ側に傾き始めます。 一生懸命酸性化を防いでいたところに、今度は別の経路でアルカリが入ってきます。猫の 体は酸性になったりアルカリになったり忙しく調整することになります。この調整は猫本 来の体質ですから何とかなりますが、もう一つの要因としてクーラーがあります。暑い外 から帰ってくるとそこは冬。もう猫は大変体の中は平衡状態を保つのにてんやわんやの大 騒ぎです。                                   

若い猫では、この調整もなんとか乗り切ってしまいますが、年のいった猫ではかなりし んどい仕事です。脂肪代謝は肝臓で行われますし、酸塩基平衡は、腎臓で行われます。ま た猫は、濃い尿を出すことによって水分の喪失を最小限に留めていますから、腎臓での濃 縮も強いものになっています。腎臓にかかる負担は大変なものです。年のいった猫が夏の 終わり頃に、肝不全や腎不全を発症してくるのが多いのはこのためだと思われます。また アルカリ尿が原因の一つになるFUS(猫泌尿器症候群)が同時期に多発するのも同じ原 因によると思われます。ただ10年ほど前までは特にFUSは冬場の病気で夏にはほとんど見られませんでした。それなのに食事の品質がよくなっているのに関わらず夏に多くなっ てきている原因の一つにクーラーが考えられます。特にバブル以降この傾向が顕著です。 1家に1台から1部屋1台になった時期です。室内だけで飼われている猫はまだよい方で すが、外にも行っている猫にとっては、真夏と秋や冬が一日の中でなんども巡ってくるの です。ストレスにもなりますし、平衡状態維持にも支障を来しているようです。  


夏の食事管理

夏に脂肪代謝が活発になるからといって脂肪の量を多くする必要はありません。猫の食事は、もともと高脂肪、高蛋白です。それ以上に高脂肪にすると肝臓に負担をかけるだけ でせいぜい肥満になるぐらいです。それよりも適度にアルカリ化を防ぐ食事を与えること に注意して下さい。FUSの原因の1つがアルカリ尿です。最近の市販のCatfoodは、そのあたりのことも考えてありますから、よほどの粗悪品でない限り大丈夫でしょう。水分に ついては、飲めといっても飲むものではありませんので、夏になっても飲水量が全く増え ないか、かえって減ってしまうような猫には、ドライフードよりも缶詰のほうがいいかもしれません。缶詰は重量の約半分が水分ですから、必要なカロリーを得る量の食事をすれ ば、かなりの量の水分も補給できてしまいます。毎日一定のカロリー補給と水分補給をさ せてあげて、必要以上の脂肪代謝が起きないようにしてあげて下さい。夏に脂肪代謝が亢 進してしまうのは、猫の特性ですから、あまり神経質にならずに一定の食事量に心がけて 下さい。   

それともう1つ。温度管理もしっかりして下さい。室内の風通しのよい部屋にいる限り、 猫にはクーラーは、必要ありません。暑さには適応している動物ですから、かえってクー ラーによる急激な温度変化や乾燥の方が猫にとって有害です。原則的に、猫には夏バテは ないと思って下さい。夏場急激に食欲が落ちるのはクーラー病?のことが多いようです。 (種類によっては、暑さに弱いものもあるので注意が必要)               

それといくら暑さに適応していると言っても、限度があります。真夏の締め切った西日 の当たる部屋に閉じこめれば熱射病になりますし、炎天下にずっといければ日射病にもなります。注意して下さい。                              

猫の特性を十分理解した上で快適に夏を過ごさせてあげて下さい。


 
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